彼女から、久しぶりに飲みに行こうと誘われた。

そんなにお酒に強くないことを知っているから、珍しいことを言うな、なんて思いながら、付き合う。

最初は穏やかに何気ない話をしていた彼女だけれど、お酒が進むにつれて、その表情が曇るのがわかる。


「もう、帰ろう」

「嫌よ。まだ、飲み足りないもの」

「いいえ、もう十分飲んだでしょう。今日はもう終わりにするわよ」

「……やだ。」

いつもは聞き分けの良い彼女、アルコールのせいか、別に理由があるのか、ぐずる彼女を無理やり立ち上がらせ、オレは自宅へと連れ帰る。


「やだ。やだ、って言ってる」

「うん、わかってる」

ベッドに寝かせれば、起き上がり、傍らにあったクッションを思うがままにワタシに投げつけてくる。

「やだ」

「うん、知ってる…」

暗闇の中、怯むことなくグッと彼女との距離を縮めれば、しかめっ面をして泣いている顔が見える。

「嫌なの……」

「ごめんな、泣かせたいわけじゃない」

嫌だという彼女。その意味がワタシのせいだってことは、わかっている。

ワタシが女性として振る舞う限り、そばにいる彼女はいつも蔑ろにして見られてしまう。


「あなたが綺麗なだけじゃないってこと、私だけが、知っているのに。とやかく言われたくない」

ぞくりとした。それは彼女の見せる、オレへの独占欲だろうか。

「私だけが知っていればいい、それでいいのに……でも、私、あなたの彼女だって認められたいの」

「じゃあ、”オレ”になろうか?」

「ッ…!……それは、嫌。私だけが、知ってればいいじゃない」

「うん、そうだね。オレのことは、お前だけが見ててくれればいいよ。お前だけに、見てほしい」


オレの彼女は、たまに面倒くさい。

これが”女”って生き物なのだろう。ワタシとは決定的に異なる点。

オレのことを1人独占していたいと言うくせに、オレの彼女であると周りから認められたいと願う。


”ワタシ”と”オレ”を使い分けてる俺に、こんなこと言われたくないと思うけど。

俺はそっと、彼女にキスを落とした。

啄むように繰り返して、そっとわき腹をくすぐると、彼女が根をあげて、やめてと笑う。


「どうでもいいだろ、周りのことなんて」

彼女がきょとんと俺を見つめる。

「俺はお前の笑顔しかいらないから、笑え」

ふにょんと頬をつねると、彼女は泣き笑いを浮かべる。

「ぷっ、変な顔。」

彼女のグーパンをもろに腹に食らう。


ああ、そうやって、嫌なことがあったら、俺が笑い飛ばしてやるから、

君にはずっと、笑っていてほしい。