「最近、ずっと、メールを気にしているじゃない」

「え?」

「知ってるの、相手が女の人だって。私よりもその人のことが、好きなんでしょう?」


メール……って何のこと?

一瞬、考えて、ハッとする。

「違うよ、これは。たしかに相手は女の人だけど、君も知っているだろう、ほら…」

仕事でお世話になっている、彼女も顔なじみの女性であることを明かし、いまだ涙を浮かべる彼女に説明する。

「今度の企画、僕をメインにして進めてくれていて、デザインとかも、僕の意見を取り入れたいって言うから、それで…」

無駄にたくさん話すと、それがどうも言い訳くさく聞こえてしまうことはわかっている。

僕も、仕事で延々と言い訳を並べる同僚を咎めることが多々あるから。

それが嫌だとわかっているのに、それを、彼女にしてしまっていることが申し訳なくて、情けなくて。

僕は静かに、口を閉じた。


言い訳なんて、しない。

僕にやましい気持ちなど全くなかったとしても、彼女が嫌だと思ったら、それは彼女に対して悪いことをしてしまったことは確かだから。

僕は、どうしてこんなにも、子どもなのだろうか。

彼女のことをわかってあげたいと思うし、どうしたら大人な男の人になれるか、日々考えているのに。

理想に一歩も近づけない自分が歯がゆくて、悔しくて、つい、悔し涙が浮かんできてしまう。


「ふふっ」

「え……?」

彼女の小さな笑い声が聞こえ、顔を上げると、彼女は泣き笑いをしながらも、優しい眼差しを僕に向けていた。


「ごめんね、何もやましいことなんてなかったよね。」

どうして、急に彼女が納得してように微笑むのかわからなくて、困惑の表情を浮かべていると、彼女はそっと教えてくれた。

「ぜんぶ、私に向けてくれる言動でわかるよ。だから…ありがとう。」


彼女に必死になって、スマートな男になれない幼稚な僕を見て、彼女が安心してくれるのなら…

僕はこの子どものままでもいいや。


「お願いだから、笑っていてよ。」

「それはお互いさま、よ?」

ひとつ年上の彼女は、やっぱり、僕より大人だと思う。

でも、その笑顔が見られるのなら、僕は、僕のことなんてどうだっていい。

笑顔を見せてくれるなら、そのためなら…。