『………別に、少しつかれてるだけだから。』

電話越しに届いた声は凛としていて、これ以上、もう俺と会話をしている暇はないというように、名残り惜しむ一瞬さえも与えてくれず、プツリと切れた。

彼女にとって多忙な時期なのは、重々承知で。

俺たちは別に毎日連絡を取り合わなければ済まないような付き合いをしているわけでもなくて、少しくらい、会えない時間が続いても、関係がこじれる原因になることもなくて…

お互いに、執着するような付き合いを好んでいないから、あっさりとした関係。

彼女はしっかりとしていて、俺があれこれと世話を焼くこともなく、逆に、俺も彼女から世話を焼かれることもない。


それぞれが自分のペースで自分の生活を整えて、お互い、自分の好きなように生きている。

そして、その一部の時間に、恋人として寄り添って過ごす時間がある。


恋人に、とりわけ用もなくかけた電話を、忙しさを理由に切られたって、俺は文句を言ったりなどしないが…。

彼女の言葉が、なぜか、引っかかる。


イチゴとバニラのカップアイスの入ったコンビニの袋を下げて、彼女の住むマンションのインターホンを鳴らす。

カメラ越しに俺を認識したのか、静かにロックが解除された。


そっと彼女の部屋に入ると、リビングのローテーブルの前に座りこむ、彼女を見つける。

小さく名前を呼ぶと、彼女がゆっくりとこちらを向く。

その顔を見て、俺は少し驚く。