病室に入って来たのは、あのアキと名乗る男だった。

「ハル! 」

男は私の名前を呼ぶなり、スーツ姿のまま私を抱き締めてきた。

「良かった、無事で……」

「え、ちょっと! 」


私は訳が分からず、抵抗する。

男は我に返り、「ごめん」と呟き私の体を離した。


男の顔を見て、私は困惑した。

……どうしてそんな、悲しい顔で私を見るの……?


「君が無事で、本当に良かったよ……。体はもう起き上がって大丈夫なのか? 」

そう言いながら、優しく私に微笑む男。


その笑顔に、なぜか私の胸はドキリと音を立てた。


私は、この笑顔を……知っている気がする。

……貴方は私を誘拐した、犯人なんじゃないの?


今の男の言動を見ていたら、何だか悪い人には思えなくなってきた。


「ねぇ、貴方……どうして私をあの家に誘拐したの? 私のお父さんとお母さんは、今どこにいるの? 私は、明日になったら……死ぬの……? 」