「昨日と同じじゃダメなの?」


執筆診断と称して少年にサインをさせていた姿を思い出す。


「あんなのダメだよ。子供は騙せても、あのアンミが素直に名前を書くと思う?」


そう言われて、「確かに、そっか」と、俯いた。


それと同時に次のターゲットはアンミたちなのだと実感して、胸の奥がゾクゾクと震えるのがわかった。


恐怖じゃない、嬉しさからだ。


気が付けば自然と笑みを浮かべていた。


こんなに楽しいと感じたことは久しぶりだ。


子供がほしかったオモチャを買ってもらえた時のような高揚感がある。


それは心地よくあたしの体を包み込んでいる。


まるで、優しいゆりかごのよう。


そんな思いに浸っている時に、足音が近づいて来た。


ハッとして顔を上げるとそこには晃紀が立っていた。


晃紀はあたし達を見ている。


さっきの会話を聞かれたかもしれないと思い、警戒する。


しかし、晃紀の口から出て来た言葉は意外な一言だった。


「今朝、大丈夫だった?」