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お母さんが作ってくれたお弁当を持ってあたしは玄関を出た。


昨日はあんなことがあって昼ご飯を食べる時間がなかったけれど、今日はちゃんと食べよう。


そう思いながらお弁当を鞄に入れたんだ。


通学路を歩いていると、昨日の少年が数人の友人たちに囲まれて登校していく姿を見つけた。


一瞬にして体に緊張が走る。


少年に気が付かれないよう、顔をそむけながらも視界の端に少年の姿を残す。


少年があたしの隣を通り過ぎていく。


友人たちとジャレあっているから、あたしには気が付かない。


少年とすれ違った瞬間、ホッと胸をなで下ろした。


大丈夫、大丈夫。


自分にそう言い聞かせていることに気が付いて、なにが大丈夫なのだろうかとふと疑問が浮かんできた。


あたしは一体なにを心配しているのだろう?


少年が死んでしまう事を心配しているのか?


それとも、少年が死なない事を心配しているのか?


どちらにしても最低な考えだ。


自分の考えに体が重たくなるのを感じた、その時だった。


後方から騒ぎ声が聞こえてきてあたしは振り向いた。


振り向いてしまった。


わかっていたのに、これからあの少年になにが起こるか、知っていたのに。


少年が赤信号の横断歩道を1人で渡っている。


一緒にいる友人たちが必死で名前を呼んでいるが、少年は振り向かない。


『車に轢かれて死ぬ』


カタログの文字が鮮明に浮かび上がって来る。


見ちゃダメだ。


そう思い、あたしは顔をそらそうとした。


だけど遅かった。