「勘違いしないで。『自殺カタログ』が一冊しかないなんて、どうして思い込んだの?」


理央の言葉にあたしは口を大きく開いたまま言葉を失ってしまった。


『自殺カタログ』は元々二冊あったってこと?


そんなの、嘘でしょ?


そう思うのに、体中から冷や汗が噴き出すばかりで言葉にならない。


「このカタログを作成しているのはあたしのお父さんの会社よ。もちろん表だって作ったりはしてないけど」


あたしは理央の家が資産家だと言う事を思い出していた。


理央の両親がどんな仕事をしているのか、聞いたことは一度もない。


「会社の社員がポストまで回収しに行って内容を把握する。サインの執筆から自殺志願者の家を突き止め、窓から特殊な周波数の音を当てる。

その周波数は人間の脳をコントロールできるものなの。一定時間音を浴びた人間は、選ばれた自殺方法の通りに死ぬ」


理央の説明を聞きながら軽いめまいを感じていた。


「この『自殺カタログ』自体に大した意味なんてない。あたしたちがやりたかったのは人をコントロールする音の試験だった。

だけどこうやってカタログ化して、サインをもらう等のミッションを使用者に与えることで、その心理の変化を観察することもできた。


芽衣、あんたは見事に悪に成り下がった」


理央の言葉にあたしは自分が小刻みに震えていることに気が付いた。