百花に『ちゃん』付けで呼ばれるほど気持ちが悪い物はない。


あたしは吐き気をこらえながら百花に笑いかけた。


「百花、ここに名前書いて」


あたしはそう言い新品のノートを差し出した。


購買で売っているごく普通のノートだ。


「ノート?」


百花は真っ白なノートを確認して首を傾げている。


「あんた、図書委員でしょ?」


「あ、うん。そう言えばそうだっけ」


百花は二年生に上がった時に自分から図書委員に立候補していた。


だけどそれは先生からの好感度を上げるために過ぎず、業務は他のクラスメートに押し付けっぱなしなのだ。


「このノート、図書委員で使うものなんだって。名前だけは百花じゃないとダメだからって渡された」


「あぁ、そうだったんだ」


百花はすぐに納得して、机の中から筆箱を取り出した。


もちろん、全部嘘だ。


ノートの名前を書く欄は『自殺カタログ』のハガキのサイン欄を切り取り、張り付けてある。


できるだけ目立たないように貼り付けたつもりだけれど、ノートの表紙との質感の違いは少し気になっていた。