この人は結婚しても、子供ができても変わる事はなかった。


それならもうこの先も変化することは不可能だろう。


自分で自分の行動が理解できていないから、変わる事だってできないのだ。


「芽衣。お父さんはこれから世界を旅してまわろうと思うんだ」


不意に真剣な表情になってお父さんはそう言った。


「あぁ、そう……」


この人ならやりそうだ。


今はお金が十分にある。


世界だろうが、なんだろうが、好きにすればいいと思う。


「旅行先でハガキを書くからな」


「……うん」


「しばらくは帰ってこないけど、心配するな」


そう言いながら自分は目に涙を浮かべている。


あたしは盛大なため息を吐き出したくなった。


あの女が死んだ時だって涙なんて見せなかったくせに。


「じゃぁな」


そう言うと、旅行鞄を手にお父さんは立ち上がった。


「え、今から?」


「あぁ。1時間後の飛行機のチケットを取っているんだ」


そう言い、鼻をすすりあげるお父さん。


「はぁ……」


どこまでも自由奔放な父親の背中を見送って、あたしはしばらくその場から動けずにいたのだった。