自殺カタログ

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ホームルームのチャイムが鳴っても先生は教室に来なかった。


アンミたちは先生の遅刻を良い事に大声で会話を始めている。


窓の外ではまだパトカーが止まっていて、生徒たちはさすがにその異様な雰囲気を感じ取っているようだった。


なにも感じていないのはアンミたちだけだ。


その時だった、慌てた様子で教室へ入って来たのは学年主任の男性だった。


小柄な体をちょこまかと動かすため、ネズミと言うあだ名が付けられていた。


「ネズミ先生! 今日はどうしたんですかぁ?」


アンミが手を上げてそう質問する。


「みなさん、今日はちょっとその……警察の方も来ていて大変なので、教室で静かに待機していてください」


ネズミ先生は喋り方までネズミのようで、まくしたてるようにそう言うと、すぐに教室を出て行ってしまった。


今日は授業にだってなりそうにないな。


月乃の死体がプールから上がったんだから、当然だけど。


「おい、他のクラスの奴らは帰ってるぞ」


廊下を見てそう言ったのは晃紀だった。


確かに、廊下へ視線を向けると鞄を持った生徒たちがゾロゾロと帰って行ってるのがわかった。


集団下校をさせられるのだろう。


「なんで俺たちだけ居残り?」


どこからかそんな声も聞こえて来る。


このクラスの生徒が死んだなんて、誰も思っていない様子だ。


あちこちから不平不満の声が聞こえて来る。