そんな時だった。


百花の甘ったるい声が聞こえてきてあたしたちの視線は自然とそちらへ向いていた。


百花がアンミの横に座り、ニコニコと笑顔を振りまいている。


月乃はアンミにジュースを買いに行くように指示されて、今教室にはいなかった。


「ねぇ知ってるアンミちゃん」


百花が『アンミちゃん』などと呼ぶときはろくでもない事を考えている時だ。


「なによ百花」


「月乃ってね、本当はアンミちゃんの立場を狙ってるんだよ」


百花の甘ったるい声にアンミの表情がこわばった。


「は? なにそれ?」


声もワントーンほど低くなる。


すでに怒りはじめているのが手に取るようにわかる。


「龍輝君の事が好きだって、言ってたよぉ?」


百花が笑顔のままそう言った。


月乃がいない間に月乃の立場を突き落すつもりだろうか。


最近のクラスカーストは、晃紀の出来事をきっかけに揺らぎつつある。


それを感じ取った百花は先手を売って来たのだ。


自分が落ちる前に、相手を落とす。


そこまですがりつきたいクラスカーストだとは思えないけれど、彼女らにとっては重大なポジション争いだった。


「それ、ほんと?」


アンミの顔からスッと表情が消えるのを見た。


それは凍り付くほどに恐ろしい眼差しだった。