【完】『浅草心中』


かくして二人はこういったかたちで添い遂げた訳であるが、ここで別の問題が出来した。

検死の折、

「これは我が用人辻宗右衛門である」

と、母の本光院が供述したからである。

というのも。

正当な理由なく横死、または切腹などした場合、武家は理由の如何を問わず断絶である。

「このままでは藤枝の家は潰れてしまう」

と本光院が知恵を回し口裏を合わせたのであるが、これは尾崎軍兵衛の入れ知恵であったともされる。

しかし。

この心中、大菱屋の七番目の遊女という、そこそこ人気のある遊女が関わっただけに、話題は江戸の市中で持ちきりとなり、とりわけ遊女を身請けしたこともあった当時の知識人の大田南畝などは、

 君と寝(ぬ)やるか
 五千石取ろか
 何の五千石
 君と寝よ

という都々逸を作ったともされる。