課長の瞳で凍死します ~伊勢編~

「母親に手伝わされていたからだ。
 普通の着物の帯も締められる」

 母親が、四十肩になった頃から、腕が上がらないと言い出してな、と言うと、
「着物も出来るんですね」
と嬉しそうに言ってくる。

 やってもらう気満々のようだった。

 いや……自分で着られるようになれ、と思っていると、
「あの、お土産見に行ってもいいですか?」
と訊いてきた。

「ついでに大浴場も行ってきます」

「待て。
 俺も行く」
と真湖を止める。

 いや、駄目だろう、と思っていた。

 ひとりで旅館の中を歩かせるなんて。

 道後温泉のときは、寝間着のような浴衣で女性が歩くなんて、無防備で悪い風習だ、と思っていたのだが。

 こうして、きちんとした浴衣を着られても、やはり許せんな、と思っていた。

 ……似合いすぎだ。

 少し凝った風に結んでやった蝶々結びも可愛らしく。

 道行く男に、女子力が高いと思われそうな感じだ。

 変に結んでやればよかった、と後悔しながら、真湖と一緒に部屋を出た。