ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

「アレス?!!」
 
しかし魔人ソフィアがその事に気がついたのは、魔法が放たれた後の事だった。

魔人ソフィアは黒い翼をはためかせると、俺の元へと向かう。
 
俺は神の守りを作り、黒い玉を跳ね返そうと構えた。

「あ、アレス!!!」
 
魔人ソフィアは俺に向かって手を伸ばし、一滴の涙が彼女の頬に伝った時だった。

絶対零度(ゼロアブソルート)
 
その呟きと共に俺たちに向かってきていた黒玉は、神の守りに直撃する寸前に氷の中へと閉じ込められた。

「なっ……」
 
しかし黒玉を封じ込めた氷は、黒玉を氷漬けにしただけでは留まらず、そのままこちらへと向かって来ていた魔人ソフィアの半身までも、氷漬けにしたのだった。

「っ!」
 
いったい何が起こっているのかと思った時、闘技場の客席の上に一人の人影が見えた。

「まったく……人が静かに治癒に専念していたって言うのに、無駄な魔力を使わせるな」
 
その人物の周りには冷気が漂っており、ただその場に立っているだけだと言うのに、その者は自分が立っている場所でさえも、徐々に凍らせ始めていた。

「カレンの頼みだから……今回は特別だ」
 
その人物は客席から地面へと下り立つと、俺たちに向かって歩き出す。
 
太陽の光によって照らされる青髪に、ギラリと冷たい色を放つ青紫色の瞳。

そして見たことのない服を身にまとった彼女は、俺たちの前を通り過ぎると、魔人ソフィアの元へ歩いて行く。

「氷の中はどんな気分だ?」

「なっ!」
 
俺たちの前に居る女性は、ソフィアの魔人化した姿を見て驚く素振りは見せなかった。