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崖の先に座りながら潮風に当たっていた時、こちらへと歩いて来る足音を聞いていた。

足音は俺から少し離れた位置で止まる。

俺は足音の人物を確認することなく、じっと海を眺め続けた。

「お前の言った通り、あの者たちをラスールへと行かせた。しかし……」
 
俺は被っているフードの中から、後ろの居るベルの姿を横目で伺った。

「本当に行かせて良かったのか? だってあそこに行ったらあいつらは」

「別に構わないさ」
 
俺は直ぐ側にあった花を一輪摘むと、それを海へとめがけて手を放す。

「花はいずれ枯れるものだ。そうだろう? ベル」

「……はい」
 
ベルは渋々と頷くと、俺に軽く一礼してその場から姿を消す。

彼女の気配が完全になくなったのを感じ、俺は立ち上がって海の向こうに浮いているラスールを見つめる。

「準備はちゃくちゃくと進んでいるんだ。今更、止めることなんて不可能だ」
 
首から下げられている翡翠石が、太陽の光に寄って一光し、俺は被っていたフードを取る。

その拍子に潮風が大きく吹き荒れ、俺の金髪の髪を揺らし閉じていた左目を開く。

「さて、行くか」
 
魔人族の力がどれほどの物なのか、この目で見させてもらおう。

『本当に行く気なのか?』
 
空中魔法を使おうとしたところで、頭の中にある人物の声が流れる。

俺は少し浮いた足を地面へと付け直し、声の主の質問に応える。

「それはどういう意味だ? お前は俺に行くなって言っているのか?」