ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

「あ、ありがとうございました！　私、ムーンの事は決して忘れません！」

「……元気でやれよ」
　
そう小さく呟き、他の狼人族たちに俺の存在が気づかれる前に姿を消す。

ソニヤは驚いたように目を軽く見開き、俺のさっきまで立っていた場所を見つめた。

「……さようなら、ムーン。今度会ったら、絶対に名前を教えてくださいね」
　
ソニヤは涙を拭うと村の中に向かって走って行く。

その姿を最後まで見届けた俺は、そっと息を吐いた。
　
六月の岬に行くには、必ずこの森を通り抜ける必要がある。

森を通っている間に、兎人族たちが襲って来ないとは限らない。

狼人族も例外じゃないが、岬近くまで行く事が出来れば、あいつらでも俺たちを追いかけて来るのは難しいだろう。

なんせ、六月の岬には【森の番人】が居るんだからな。

「とりあえず、アレスたちには注意するように呼びかけとくか」
　
森の出口に向かおうとし、最後にもう一度村の入口を見つめた俺はその場から姿を消した。