ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

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ソニヤの手を引きながら、俺は狼人族の村がある入口に向かっていた。

しかしまたいつ、兎人族たちが襲ってくるのか分からない以上、辺りには気を配っていた方が良い。

もしかしたら何処かで息を潜めて、ソニヤの命を狙っているかもしれないんだ。
 
ブラウドはあんな事を言っていたが、直ぐにソニヤを見逃すと言ったあいつの言葉を、俺は信じられずにいた。

あんな大人数で子供の狼人族を仕留めようとしていたんだ。

それだと言うのに、ブラウドは俺に【見逃す】と言い放ち森の奥へと消えて行った。
 
元狼人族である俺にも知られたくない事があるのか、それとも本当に見逃してくれたのか……。

少し様子を見たいところだが、俺はこの子の側にずっと居られるわけじゃない。

だからせめて、この子の居場所だけでも作ってあげられたらと思うんだが、俺が村に戻るわけにもいかない。

だって俺は、狼人族の異端なのだから。

「あの……名前を聞いても良いですか?」
 
そんな事をふと考えていた時、ソニヤが俺の顔を見上げながらそんな事を聞いてきた。
 
そう言えば俺の名前をまだ名乗っていなかったか……。

でもここで俺の本当の名前を告げるわけにはいかない。

もしうっかり俺の名前を口にしたら、この子は確実に村の仲間たちから蔑まれて、本当の意味で一人ぼっちになってしまう。
 
だから――

「悪いけど俺は名乗る気はない。もし呼び方に困っているのなら【お兄ちゃん】とでも呼んでくれ」

「そ、それはあなたが元狼人族だからですか? だから名前を教えてくれないんですか?」

「……それも言えない」
 
俺はそう言うと、ソニヤは少し寂しそうに視線を伏せた。