ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

「わ、たし……村で一人ぼっちだから、何をしたら良いのか……どうすれば良いのか……分からなくて」
 
【一人ぼっち】と言う言葉に俺の心臓が大きく跳ねた。

そして同時に昔の自分の姿が、今のソニヤの姿に重なった気がして、【昔の俺と同じだ】とそう思ってしまった。
 
この子はある日突然、兎人族たちに両親を殺されて一人ぼっちになってしまった。

それまでは家族と共に幸せに暮らしていたはずなんだ。両親が死ぬなんて考えもしなかっただろう。

まだ子供であるこの子が、両親の死を受け止めるのは難しいはずだ。

きっと周りに頼れる人だっていない。

だからソニヤは、両親を殺した人に会おうと思ってしまったのかもしれないな。

両親を殺した人物に【なぜ殺したのか】という理由を聞く事が出来れば、両親の死を受け止められると、そう思ってしまったんだ。

今のこの子の側には、それを【間違っている】と教えてくれる大人は居ない。この子の側には……誰も居ないんだ。

俺は立ち上がってソニヤを見下ろしながら、そっと右手を差し出した。

その手をじっと見つめたソニヤは、小首を傾げると俺の顔を見上げた。

「とりあえず村の入口までは送ってやる。きっと今なら戻ってもバレることはないだろう」

「で、でも……」

「良いから……早くしろ」
 
俺はそう言ってソニヤに優しく微笑んで見せた。

ソニヤは涙を拭うと、差し出された俺の手に向かって自分の手を伸ばす。

しかし直ぐに掴もうとはせず、指先が触れ合う少し前に、彼女は一瞬躊躇うように手を引っ込めた。
 
そんな彼女の姿を見ても、俺は何も言わずじっと待っていた。

焦らせるような事は言わず、ソニヤのペースで良いから、ゆっくりと少しずつ一歩前に踏み出してほしかった。

ソニヤはもう一度俺の顔を見上げると、頬を少しだけ赤くしてから、俺の手を掴んだのだった。