ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

「――っ」
 
その言葉にハッとした時、ブラウドは地面を強く蹴るとそのまま森の奥へと消えて行ってしまった。

完全に兎人族たちの気配がなくなったのを感じ、俺はブラウドが消えていった方角を軽く睨みつけた。
 
【また今度会ったら、ゆっくりと互いについて話そうじゃないか】

その言葉の意味を知った俺は拳に力を込めて。

「誰が……」
 
そう小さく呟いたのだった。

「あ、あの!」
 
後ろから少女の呼ぶ声が聞こえ、俺は息をそっと吐いて少女の方へとゆっくり振り返った。

すると少女は頬を赤く染めると、深々と俺に頭を下げてきた。
 
その姿にギョッとした俺の頬に汗が伝った時、少女は言葉を紡ぐ。

「た、助けてくれてありがとうございました! 私は狼人族のソニヤって言います」
 
少女、ソニヤはそう言うと優しく微笑んで深紅の瞳を細めた。
 
俺はソニヤを見下ろしながら、彼女の目線に合うようにしゃがみ込んで問いかける。

「ソニヤ……か。ところで何でお前みたいな子供が、夜遅くこんなところに居たんだよ?」
 
その質問にソニヤは応えたくないのか、気まずそうに俺から目を逸した。

「お前も知っていると思うけど、子供の狼人族は夜の外出を禁止されているんだ。成人するまで村の外に出る事も禁止されていて、もし破ってしまったら重い罰を受ける事になるんだぞ」

「……はい、もちろん分かっています」
 
ソニヤはそう言って目尻に涙を浮かべた。

まさかこの子はそれを知っていながらも、自分の両親を殺した兎人族を探そうとしていたのか? 

重い罰を受ける事も知っているのになぜ……。