私は急いで魔法書を両手で掴み、元にあった場所にテキパキと戻していく。

「これはここで！　これはあっちで！　これはそっちで――」

「急がないとそろそろ来るわよ」
　
その言葉に苛ついた私は口を大きく開いて。

「う、うるさい！」
　
そう叫んだ時、私は足元に転がっていた一冊の魔法書につまずいた。

「きゃっ！」
　
両手に持っていた魔法書は手から離れ宙を飛び、私の体は前へと倒れ込んでいく。
　
アレスが部屋の扉を開いたと同時に、私は床に思いきり顔面を強打した。

宙を舞った魔法書もまた、頭に向かって勢い良く降ってくる。

「な、なんだ？！」

「い、い……たい」
　
本の角が頭にぶつかってヒリヒリするし、顔も強く打ったから物凄く痛い……。
　
私は顔を片手で抑えながら、アレスの方へと目を戻した。
　
アレスは目を丸くしながら私をじっと見下ろしていて、そんなアレスの足元に居るムニンはテトに説明を求めるように顔を向けた。
　
当然、テトは説明するのが面倒くさいのか、軽く息を吐くと片手を上げて言う。

「状況はこれを見てよ〜く考えてね」
　
その言葉にアレスは額に手を当てて【またか】と呟く。

ムニンも呆れながら、【ヤレヤレ】とでも言うように両手を上げて頭を左右に振った。
　
アレスは額から手を離し、私の側まで歩いて来るとしゃがみ込んだ。

「痛むのか？」

「ちょっとね……ヒリヒリするだけ」
　
目尻に軽く涙を浮かべながら体を起こしてそう言う。

そして後から、アレスたちに変なところを見られてしまったという恥ずかしさが、追い打ちをかけるように込み上げてきて、私は顔を赤くして伏せた。
　
しかしアレスはそんな私を他所に、周りに散らばっている魔法書を拾って本棚に戻していっている。

「別に隠れて勉強することはないだろ？」
　
その言葉に少なからずカチンと来た私は、伏せていた顔を上げて抗議するように、アレスの背中に向かって叫んだ。