ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

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食堂から離れた俺は人気のないところへ向かった。

辺りを見回して周りに人が居ない事を確認して口を開いた。

「誰も居ないぞ、出て来いよ」
 
その言葉に近くの茂みの中から、テトがひょっこりと顔を出した。

「私が見ていたってよく分かったわね」

「これでも一応、周囲の気配には気を配っているからな。それより俺に話があるんだろ?」
 
テトは俺の側に寄ると肩へと飛び乗ってきた。黒い尻尾が左右に触れ軽く頬を掠めていく。

「ソフィアが言ってなかった? 体が凄く軽くなったって」

「ああ、言ってた。でも、信じられない……」

俺は近くにあったベンチに腰をおろして考え始める。
 
昨日までのソフィアは、いつもならあと数日は寝込んでいるはずだ。

それなのに今回はいつもより回復が早かった。それも万全な状態で回復していた。

いったい何が起こったって言うんだ?

「昨日まで辛そうにしていたはずなのに、昨日の今日でそう簡単に体が軽くなるか?」
 
まさか魔人族の血が働いたのか? 

寝ている最中にソフィアが無意識に、血に流れる特殊な魔力に呼び掛け、細胞たちに体を治すように命令した、とか。

「あなたの方が私より治癒魔法に関しては詳しいでしょ?」

「それはそうだけど……」
 
治癒魔法とソフィアの件は別だ。

俺が治癒魔法を得意とするのは、カレンから色々と話を聞く機会があったからだ。

全ての治癒魔法に精通しているわけじゃないし、高度な治癒魔法は使う事が出来ない。せいぜい出来ても体の治癒くらいだ。

「あの子言ってたわよ。夢を見たって」

「夢?」
 
テトの言葉に俺は軽く首を傾げた。

「どんな夢なのかは聞いていないけど、凄く心地よくて温かい夢って言っていたわ。それを見てから体が軽くなったそうよ」