「それまで我々はこの地で、血を繋げて行かなければならないのだ。だから今日からお前が、この民を導く巫女だ」

「はい、エーデル」
 
ザハラは小さく頷くと、ゆっくりと顔を上げて我を見上げた。
 
幼かった彼女もここまで立派に成長してくれた。

もうこの子に言う事は何一つないだろう。

「ザハラ、【私】も歳を取りました。そろそろこの座を新しい子に」

「何を言っているのですか! エーデル……あなたはずっと、私たち民を見守り続けてくれました。これからだって、ずっとそうです!」
 
彼女の言葉に驚き目を細める。
 
ザハラの言う通り私は、民を何百年と見守り続けてきた。

あのお方の代からずっと……。

しかしもう我も歳を取った。

いつ死ぬか分からないこの状況で、我の跡継ぎが居ないのは少々まずいと思っているところなのだ。

「……冗談ですよ。心配しないでください」

「はい……」
 
ザハラの中ではまだ不安が消えないのか、彼女の瞳は酷く揺れ動いていた。

そんな彼女を安心させる為、私は彼女の頬に顔を擦り寄せた。

「エーデル……」

「心配しないでください、ザハラ。私はずっとあなた達を見守り続けますから」
 
と。彼女がエーデルとそんな話をしたのが今から一ヶ月前の事になる。

「いったい……どこへ行かれてしまったのですか? エーデル……」
 
今から一ヶ月前、エーデルは私たちの前から姿を消してしまった。

何を告げる事もなく。
 
私はエーデルを探し出さなければならない。

この民のため、そしていずれ来るはずの魔人族復興のためにも彼女は必要な存在なのだ。