「あ、あなたもしかして」
 
すると今度はソフィアは、彼女の顔を覗きこむと言う。

「あの……エルさん? ですか?」

「……」
 
その呼び名に目を瞬かせたエクレールさんは、とても嬉しそうに笑顔を浮かべると周りに花を飛ばせた。

「あらあら、まあまあ! その通りなのですよ。わたくしはエルなのです」
 
俺はソフィアの隣に座って尋ねる。

「どうして【エルさん】って呼んだんだ?」

「それがどうしてか分からないんだけど、ふと頭の中にその二文字が浮かんで、それでとっさに」
 
とっさに……か。まさかそれは魔人の彼女が封じ込めた記憶が関係しているのだろうか?

「良いのですよ、そう呼んでくれてもわたくしは構いません」
 
そう言ってエクレールさんは、ギュッとソフィアの体を抱きしめた。

するとソフィアは、とても安心した表情を浮かべると、その身を彼女のへと委ねていた。

そんなソフィアの姿に安心した俺は、村の方へと目を向ける。
 
村にある噴水の周りでは竜人族の女性たちが舞を踊ったり、それに合わせて楽器を使った演奏が行われている。
 
アルさんとレーツェルさんも宴を楽しんでいるようだし、サファイアさんも宴を静かに見守るように、木に背中を預けながら胸の前で腕を組んで立っていた。
 
その中で俺は、ブラッドさんとカレンの姿がない事に気がついた。

「あれ?」
 
二人はどこに行ったのだろうか? それにテトの姿も見当たらない。

「アレス。どうかしたの?」

「いや……」
 
二人の行方は気になるけど、テトはどっかその辺で寛いでいるだろう。

そう思った俺は、ソフィアへと優しく微笑み返したのだった。