ザハラは納得がいかないようだった。拳に力を込めて体を震わせている。

しかし彼女は力を込めていた拳を解き、目尻に溜まっていた涙を拭うと、覚悟を持った目でエーデルを見上げる。

「私は巫女としてまだまだ未熟なところがあります。でも、それでも頑張って行こうと思っています。ヨルンが求めていた巫女にはなれないかもしれませんが、私はそんな彼にこれが巫女としての私だと、胸を張って言えるような存在になりたいと思います」
 
彼女の覚悟にエーデルはゆっくりと頷いた。

「新しい命もこうして誕生しました。その子を守って行くためにも、そして民を導いて行ける立派な巫女としてなれるかどうか、ずっと側で見守ってくれますか? エーデル」

「もちろんですよ。私の愛しい子よ」
 
エーデルの言葉にザハラは笑った。

決して涙は浮かべず、これからの事を見据えている彼女の存在は、とても大きいな物になるだろうと、この時の俺はそう実感した。

「そんじゃあ、こうして無事いろいろと解決したってことで今日は宴だな、ザハラ」
 
ブラッドさんのその言葉に、ザハラは嬉しそうに大きく頷いた。

「エーデル。この子の名前は決めたのですか?」

「いいえ、まだですよ。しかしこの子に名前を付けらもらう人は、もう決めているんです」
 
エーデルのその言葉にエクレールさんは首を傾げる。

「ラグにも素敵な名前を付けてくれた彼女とは、別人になってしまうのですが、私は彼女に名前を付けて欲しいのです」
 
その言葉にブラッドさんは目を見張ると、そのまま勢い良くエーデルの方へ振り返った。

そんなブラッドさんに気がついたエーデルは優しく目を細めた。

「……参ったな」
 
そう言ってブラッドさんは、苦笑して頬を掻いていた。
 
エーデルの言う【彼女とは別人の人】と言うのは、一体誰の事を言っているのか、そして苦笑しながら頬を掻いているブラッドさんを、カレンは複雑な表情を浮かべながら見つめていたのだった。