「俺がここへ来たのは、この島から感じる闇の魔力が何なのかを突き止めるためと、魔剣エクレールを覚醒させるためなんだ。でもその前に俺は、エーデルとある約束をしていた。もし出産の時期になったら、自分の子供を取り上げてほしいってな。だからその件も含めて、俺はこうしてここへやって来たんだ」

「だから先生はこの島へ来たんですね」

「そういうこと」
 
ブラッドさんはそう言ってカレンへ優しく微笑むと、エーデルの側で眠っている子竜へと目を戻す。

「エーデルは誰より先に、この島に黒い粒子がやってくることを知っていた。だから自分の光の加護を使って時空の割れ目を塞いでいた。しかしタイミングが悪かったんだ」
 
ブラッドさんは眠っている子竜へと近づくと、そっと優しく白い体を撫でる。

「エーデルは妊娠していた」
 
その言葉に俺たちは目を見張った。
 
じゃあ……エーデルが自分の行方を眩ませたのは……。

「もちろん行方を眩ませたのは我が子を守るためと、それと同時に自分の命を守るためってこともある」

「その通りなのですよ」

「エクレールさん?」
 
するとエクレールさんはニコニコしながら、エーデルの側にいる子竜へと近づき、ブラッドさんと同じく優しい手付きで子竜の体をさすった。

「白竜は出産する時に、光の加護を一時的に失ってしまうんです。その状態のエーデルでは、時空の割れ目を抑える事は難しいのです。ですから出産が終わるまでここへ身を隠し、ブラッドが来るのを待っていたのですよね?」
 
エクレールさんの言葉に頷いたエーデルは、そのまま彼女へと顔を擦り寄せた。

「とても嬉しいのですよ、エーデル。これでラグにも兄弟が出来たのですから」

「はい……」
 
エーデルはそのまま俺たちへと目を戻した。

「あなた方にはご心配をおかけしました。ヨルンのことも……私がもっと早くに気づいていれば、あの子が死ぬことはなかったのかもしれません」

「……エーデル」
 
その言葉にザハラは辛そうに表情を歪めると口を開く。

「ヨルンのことは……エーデルが謝ることはありません。むしろ私が謝らなくてはいけないのに……」

「ザハラ。あなたは巫女として民を守ってくれました。私は感謝しているのですよ?」

「でも……」