ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

「よし、これで暫く休める。いや〜、つっかれた」
 
ブラッドさんはブンブン右腕を回しながらこちらへと歩いて来る。

しかし俺は後ろで倒れているヨルンの存在が気になった。

「あ、あの、ブラッドさん。ヨルンのことは?」

「あ〜、良いの良いの」

「えっ?
 
ブラッドさんは回していた腕を下ろすと、冷めた目でヨルンの方を見ると言う。

「もうあいつは消えるしかないから」

「……は?」
 
その言葉に俺たちは目を見張った。

「さっき消えた黒い霧は、暴食の悪魔の粒子だ。その粒子がヨルンの体を乗っ取って、色々と悪さを働いたってわけ」

「じゃあ、ヨルンの体は」

「……暴食の悪魔に魔力を全て喰われた挙げ句、雫も喰われてしまったんだ。マナの毒によって死ぬか、それとも粒子が抜けた反動で消えるか、どっちにしろあいつには、死ぬ以外の選択肢がもう残されていない」

「そんな……」
 
じゃあヨルンは好きでこんな事をしたわけじゃないのか。暴食の悪魔によって操られて、したくもない事をして――

「言っておくけど、あいつには同情するなよ」

「えっ……」

「あいつが言っていた事は全て本心だ。それを自分に変わって悪魔が言っていた。もし悪魔に体を乗っ取られていなかったとしても、いずれ同じような事をあいつはしたさ」
 
ブラッドさんは吐き捨てるようにそう言うと、元きた道を戻り始める。
 
俺はそんなブラッドさんの背中を見る。
 
どうしてあの人は簡単にそう言ってのける事が出来るんだ?

確かにヨルンのした事は許される事じゃない。

自分の欲望の為に大勢の人たちを傷つけて、ソフィアの力を悪用しようとした。

でもそれは全部……悪魔のせいで。