ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

『元々月の精霊は初代狼人族の長が受けていた加護であり、その力はとても温かくて、黒い粒子たちの侵食ですら、止めてしまう程の力を持っているんです』

「そうなんだ。レーツェルさんは精霊について詳しいんですか?」

『はい!』
 
か、可愛い……。いや、そんなこと思ったらアルさんに殺されるか。
 
そんな事を思いながら、俺たちはヨルンへと目を戻した。
 
黒い粒子たちが全部を浄化された事によって、ヨルンは意気消沈してその場に座り込んでしまっていた。
 
するとブラッドさんは、アルさんを鞘に戻すとレーツェルを持ってヨルンの側へ寄った。

「……何をするんですか?」
 
俺の質問にエクレールは言葉を詰まらせた。

その様子に首を傾げた時、ブラッドさんはレーツェルさんを構えると、そのままヨルンを斬り捨ていた。

「なっ!」
 
その光景に俺たちは目を丸くした。

ヨルンを斬り捨てたブラッドさんは、そのまま何も言うことなく、レーツェルさんを鞘へと戻した。
 
しかし俺はその姿に間違っていると思って、こちらに背を向けているブラッドさんに叫ぶ。

「ブラッドさん! 何も殺すことなんてないじゃないですか!」
 
その言葉に反応したブラッドさんは、数秒黙り込むと笑顔を浮かべながらこちらを振り返った。

「違う違う、俺が斬ったのはヨルンじゃない」

「……えっ?」
 
それじゃあ何を斬って?!
 
そのときヨルンの体から真っ黒な霧が俺たちの頭上へと上がった。

「ああああ……あああ……ああ」
 
その黒い霧はうめき声を上げながら、白い灰となって消えていった。

「……おい、今の何だよ?!」

「わ、分からない」
 
黒い霧が完全に消えた事を確認したブラッドさんは、深々と溜め息を吐いた。

「はあああ〜……よし、これで終わった〜!!」

「えっ?」
 
そう言ってブラッドさんは大きく伸びをした。