ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

そう言ってブラッドさんは、剣の切先をヨルンへと向ける。

しかしブラッドさんの言葉を聞いていたヨルンは、悪びれる素振りは見せず、ただ面倒くさそうに溜め息を深々と吐いた。

「はあ……確かに僕は、兎人族と狼人族たちがそれぞれ恨み合って、戦争を引き起こすようにしましたよ。でも今は停戦状態じゃないですか? 今は誰も傷ついていない。それで良いじゃないですか?」

「……なんだと!」
 
ブラッドさんは剣を構えてヨルンへと今直ぐ斬りかかる体勢へと入った。

「……おい、お前……」
 
するとロキに抱きかかえられていたムニンは、意識が戻ったのか目を開けるとギロリとヨルンを睨みつけた。

「今の話……本当なのかよ」
 
ムニンはロキから下りると、人間の姿になる。その姿にブラッドさんは驚いて目を丸くした。

「まさかお前……フォルの?」
 
ムニンは複雑に表情を歪めると、ブラッドさんに問いかけた。

「親父が……最愛の人を失ったって、どういう意味ですか? だって、母上を殺したのは……」

「フォルじゃない」
 
ブラッドさんはそう断言した。その姿にムニンは目を見張る。

「ムニン。お前が生まれた頃のあの森には、原因不明の病が流行っていたんだ」

「……病?」
 
ムニンはその病について知らないのか、小さく首を傾げた。

「その病に掛かった者は、誰彼構わず人を襲うようになる。自我を失った化物になって、家族であろうと、同じ仲間であろうとも殺しつくすんだ」

「そ、それ……あの竜人族たちみたいじゃないか!」
 
ロキの言葉にブラッドさんは軽く頷くと言葉を続ける。

「そんな中、お前は生まれてしまった。違う瞳の色を持った狼人族として」

「っ!」

「そんな子を見たら、誰でもお前がその病の原因だと思うだろう。だからフォルは、お前を連れてスカーレットに村を出るように言ったそうだ」

「……親父が」

「しかしスカーレットは村を出る事を拒んだ。だからフォルは、お前たちを守るために、村から離れた位置に家を建てて、そこにお前たちを住まわせていたそうだ」

「……そんな話……信じられるわけないだろ!」
 
ムニンは酷く動揺しながら、瞳を揺らしながらそう力強く叫んだ。

「何でそんな話を、他人のあんたから聞かされないといけないんだ! 僕はずっと親父を憎んできた! 僕を異端だと呼び、そんな僕の母親でもある母上でさえも、あいつは簡単に切り捨てたんだ! 僕たちを守るために切り捨てただなんて……そんなの信じられるわけないだろ!」