「あなたの力を俺は、大切な者を守る為に使います」

「……その大切な人と言うのは、ソフィアちゃんのことなのですね?」

「えっ?!」
 
ソフィアの事を知っているのか?!

「わたくしにとってもソフィアちゃんは、とても大切な子なのです。わたくしの妹である、エレノアちゃんの娘なのですから」

「……エレノア」
 
その人がソフィアのお母さん……。

いや、その前に妹って?!

「エレノアちゃんは私と彼にとって、とても大切な存在なのでした。エレノアちゃんが死んだと、エーデルから聞かされた時は……とてもショックでした」
 
エクレールさんはそう言って、目尻に涙を浮かべた。

「しかしソフィアちゃんが生きていると知ったら嬉しくて、思わず会いに行ってしまったのですよ」

「あ、会いに行ったんですか?! じゃあ、ソフィアが言っていた心地よくて、懐かしい夢って言うのは……」

「きっと、わたくしの事なのです」
 
じゃあエクレールさんが、ソフィアの雫を落ち着かせてくれたんだ。

この人だったら……魔人族の生体について何か知っているのかもしれない。
 
エクレールさんは俺の前まで歩いてい来ると、そっと手を差し出した。

「わたくしとあなたの願いは一緒なのです。共にソフィアちゃんをお守りしましょう」

「……っ! はい!」
 
俺は躊躇わず彼女の手を取った。その瞬間に彼女の記憶らしく光景が頭の中を駆け巡った。

「これから俺たち魔人族は、お前を守る為に動こうとしよう」

「はい、ありがとうございます。リヴァイバル様」
 
リヴァイバルと呼ばれた魔人族の人は、薄緑色の瞳を優しく細めると、エクレールさんの手を取った。
 
そしてまた場面が代わり次々と記憶が流れていく。

「まあ、エレノアちゃん! 赤ちゃんが出来たのですね!」

「はい……。早くお二人に報告がしたくて」

「まあまあ! とても嬉しいのですよ。そうでしょう? リヴァイ」

「えっ、あ、ああ……」

「姪か甥がわたくしたちに出来るのですよ? とても素晴らしいことなのです」
 
エクレールはとても嬉しそうに微笑むと、エレノアさんのお腹に手を触れた。

「あなたに光の祝福がありますように」
 
そしてまた流れていく記憶がとある場面を現した。

「リヴァイ……愛しています。ずっと……大好きなのですよ」

「……ああ、エル。俺もだ……お前が……好きだ」
 
二人は互いに手を取り合うと、そのままエクレールさんは永遠に眠るように目を閉じた。

その記憶を目にした俺の頬になぜか涙が伝った。

「アレス!」

「っ!」
 
目を開くと俺は元の場所に戻ってきていた。

「突然気を失ってびっくりしたぞ! 大丈夫なのか?」

「あ、ああ……」
 
その言葉に安心したのかロキは軽く息を吐くと、ヨルンと戦っているブラッドさんたちへと目を戻した。

ロキに釣られて俺も二人を瞳に映す。

「あの人……すげぇよ。あの黒い粒子をものともしないで、簡単に斬り捨てながらヨルンと距離を縮めている」

「……」
 
俺はブラッドさんの手の中にある剣へと視線を動かす。
 
真っ赤な刀身は魔力を発動しながら刀身を輝かせ、切先近くの凹みの中には、紅い紅玉が光を放っている。

やっぱりあの剣も魔剣なのかと思った俺は、手の中にあるエクレールさんを見下ろして立ち上がった。
 
そんな俺の姿に気がついたブラッドさんは、一回後ろに大きくジャンプすると俺の側まで飛翔した。

「エクレールと契約出来たのか?」

「は、はい……」
 
ブラッドさんの顔を見ると、彼の右目の瞳が紅く不気味に光を放っている事に気がついた。

その瞳を見た時、一瞬嫌な気配を背中にゾクリと感じた気がした。