ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

「何の用かしらないけど、ここは僕と母上の家だ! だから今直ぐ出て行けよ!」

「それは無理だ」

「っ!」
 
親父は表情一つ変えずにそう言い放った。

そんな親父に目を丸くしたが、僕はまた直ぐに睨み返した。

僕を見た周りの奴らはビビったのか後ずさった。

しかし親父だけはじっと僕を見てきている。

「お前を迎えに来たんだ」

「……はぁ?! 今更……僕にお前の後を継げって言うのか!?」

「そうだ」
 
親父の低い声が僕の体を怒りで震わせた。

「そんなの……お断りだ!」

「……そうか」
 
そう呟く親父は僕に近づくと胸倉を掴んできた。

「ぐっ!」

「……」
 
親父は何も言わず俺を見上げている。

その姿に更に怒りが芽生えた時、親父の後ろで倒れている母上の姿が瞳に飛び込んできた。

「おい……何でそこに母上が倒れているんだよ」
 
母上の存在に気がついた僕を親父は下ろす。僕は親父の隣を通って直ぐに母上の側に駆け寄った。

「だ、大丈夫ですか! ははっ……」
 
その時の光景は今でもはっきりと覚えている。
 
母上が倒れている周りは血の海になっていて、背中には大き爪痕が残っていた。

母上の瞳からは光が失われていて、既に死んでいると悟った僕はその場に座り込んだ。

「……っ」

心臓の鼓動がドクドクと早くなっていき、体が徐々に熱くなってくる。

「……誰だ」
 
目から涙が零れ頬を伝って床に落ちる。

「誰が母上を殺したんだぁぁぁ!!」
 
僕は後ろに居る親父たちに問いかけるように振り返った。

その瞬間に親父の右手の爪先が、血色に染まっていることに気がついて、僕は目を丸くした。

「お前が……母上を殺したのか?」

「……そうだ」
 
親父は一言そう言い捨てると、冷酷な瞳で僕を見下ろした。

深紅の瞳の中に僕の姿が映り、僕は唇を噛んで立ち上がった。
 
怒り、恨み、悲しみ、苛立ち――今まで抱いた事のない感情が僕の中を駆け巡った。

「何で母上を殺したんだ! あんなに優しかった母上をどうして!?!」
 
目から涙がボロボロと零れ、何度拭っても止まることはなかった。

「僕は絶対お前の後継になんてならない! こんな……人殺しの親父なんかの!!」
 
そう吐き捨てる言った後、僕は親父の横を通って家を飛び出した。

誰か追って来るのかと思っていたけど、誰も僕を追って来ることはなかった。