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前に一度だけ見た事があったんだ。
 
それは酷く雨が降っている日だった。

ここ最近カレンから避けられていた俺は、彼女とどう接したら良いのか分からなくて、どう言葉を掛けたら良いのか分からなくてずっと悩んでいた。
 
そんな中、母さんから買い物を頼まれて人気のない広場の前を通った時、一人ぽつんと佇むカレンの姿が目に入った。

「カレン?」
 
こんな雨の中どうしてこんなところに居るんだ? そう思って声をかけようとした時だった。

彼女の手の中にサファイアの存在がある事に気づき、俺は声を掛ける事をやめた。
 
するとカレンは体から力が抜けたように、その場に座りこんだ。

そして彼女は体を震わせながら泣いていた。

「ごめんさない……私のせいで……お兄様。ごめんなさい!」
 
雨の中、泣いているカレンの姿に俺は目を見開いた。

最初はどうして泣いているのか理解出来なかったけど、それからカレンの様子を遠目から観察するようになって、カレンが自分の存在について悩んでいる事に気づいた。
 
俺と距離を置いたのだって、俺が目標としているカレンにはなれないと思ったからなんだ。

「こんなんじゃだ……駄目なのよ! これじゃあ、サファイアに認められない!」
 
必死にサファイアに認められようと頑張っているあいつを見て、俺は力になりたいと思った。

側で支えたいと思った。そして――

俺は業火の魔道士として、この力をカレンのために振るおうと決めたんだ。

彼女を守るため、もう二度と涙を流させないために、俺はお前を追いかけたのだから。