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アレスの部屋に戻って来た僕は、そのままベッドの上で丸くなって目を瞑っていた。

「クソ…………」
 
テトがあんなこと言うから、嫌なことを思い出したじゃないか。
 
瞑っていた目を薄っすらと開き、夕日が沈みかけている外を僕は睨みつけた。

「確かあんな日も……こんな夕焼け空だったな」
 
血色のような夕焼け空を見ながら、僕は昔のことを思い出す。
 
それは僕が使い魔になる前に起きた事件だった。

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六十年前――

僕は狼人族をまとめ上げている長の家に生まれた狼人族だった。
 
ほとんどの子供なら、生まれてきたらみんなから祝福されるものだ。

それはどの種族だって同じだ。
 
でも生まれたばかりの僕は、誰からも祝福されることもなく、周りの奴らから異端児扱いをされた。

それは全部……この瞳のせいだった。
 
本来、狼人族に生まれてくる子の瞳は、深紅の瞳を持った子と決まっている。

しかし生まれてきた僕の瞳の色は…………黄緑色だった。

しかも長の家から生まれた子だ。僕は生まれて直ぐ家に泥を塗ったんだ。
 
なぜ、僕だけこんな瞳を持って生まれてしまったのか?

どうしてみんなと違うんだ?
 
周りから冷たい目で見られ、蔑まれ、異端児扱いをされ続けた僕は、幼いながらにも精神を病みかけていった。

でもそんな僕に、唯一手を差し伸べてくれたのが母上だった。
 
母上は僕を生んで直ぐに家を追い出された。

「この異端児を生みおって!」

「あんたも同じく異端者だ!」

「出て行け! ここに異端者など要らん!」
 
母上は何も悪くない。母上が追い出されたのだって全部僕のせいだ。

この世に生まれてしまったせいで、僕は母上の人生を台無しにしてしまったんだ。
 
でも母上はこんな僕に言ってくれた。

「あなたの瞳はまるで月光のよう。暖かくて、とても穏やかで優しい光」
 
だから僕は自分の瞳を少しずつ好きになれていった。

母上が居たから一人ぼっちじゃなかった。母上が居たから生きようと思えたんだ。

そう思い始めていた頃だ。

事件が起きたのは……。