ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

母親と一緒に自分を切り捨てたフォルの事を、ムニンはきっと深く憎んでいたはずだ。

誰だって心から憎んでいる存在が目の前に居たら、冷静さなんて失うさ。

俺だって……そうだったのだから。

「だから俺はムニンだけでも助かってほしくて、俺がスカーレットを殺したと言った。それからあいつは、この狼人族から出て行ってしまった」

「今どこに居るのか知っているのか?」

「……噂で耳にしたが、使い魔に狼人族の子が一人居ると聞いた。それがムニンなのかどうかは分からないが」

「……そうか」
 
生きているなら、まだ和解は出来るか……。
 
「悪い……フォル。俺がもっと早く気づいていれば、お前たちが苦しむことも、スカーレットが死ぬ事もなかったのかもしれないのにな……」
 
そうボソッと呟き、椅子から立ち上がってフードを羽織り直す。

本当に俺って男は……大切な事に気づくのがいつも遅いよな。

気がついた時には全てが手遅れで、救えたはずの存在が目の前からみんな居なくなっていく。

その度に俺は……何度後悔したら気が済むのだろうか。

「……もう行くのか?」

「ああ。この後、兎人族たちにも話を聞きに行くつもりだから」
 
家の扉を軽く開け、最後にフォルの方へと振り返って言う。

「この件は俺に任せろ。必ず病気の原因を突き止めてやる」

✩ ✩ ✩

フォルとの会話を思い出しながら、俺は頭の中で整理していく。
 
狼人族と兎人族が戦争をしている原因というのが、狼人族が兎人族を、そして兎人族が狼人族をそれぞれ殺してしまったから始まった。

しかしその根本的な原因が、六十年前に流行り出した原因不明の病気。
 
その病気に掛かってしまったものは、誰彼構わず人を襲うようになる。

そしてそれは、森を豊かにしていたはずの精霊たちが居なくなってから、突然流行りだした。

「なぜ、精霊たちはいなくなったのか、どうして原因不明の病気が突然流行り出したのか、そして一ヶ月前に行方不明となっているエーデルは、どこへ行ってしまったのか」
 
俺は羽織っていたフードを脱ぎ捨て、目の前に見える大きな扉の前に仁王立つ。

腰から下げている一本の剣を鞘から抜き、右目から包帯を外してゆっくりと見開く。