「ムニンは確か狼人族の出身だったわね?」

「……まあな」
 
ムニンはその話に触れられたくないのか、テトから視線を逸した。その様子に俺は首を傾げる。

「テト……狼人族は理由も無しに他の種族を襲うような連中じゃない。それに縄張り争いをしているなんて、俺は知らなかったぞ」

「だってあなたは狼人族から抜け出して来たじゃない」

「っ!」
 
テトの言葉に少し棘があるような言い方だと思った俺は、複雑な表情を浮かべているムニンに問いかける。

「何か理由があるのか?」
 
しかしムニンは何も言わずただ頭を左右に振るだけで、床に下りると部屋を出る直前に。

「何でもねぇよ」
 
それだけ言って部屋から出て行ってしまった。

「お、おい、ムニン!」
 
いったいどうしたって言うんだ?

「放っておいてあげなさい」
 
テトは目を細めると、ムニンが出て行った方向を見つめながらそっぽを向いた。

「誰にだって、話したくないことの一つや二つあるものよ」

「だったら、あんな言い方しなくても良いだろ!」

「それはそれよ」
 
その言葉に俺は更に首を傾げた。
 
そしてムニンが出て行った先を見つめる。

ムニンが話したくないなら俺は無理に聞こうとは思わない。

狼人族を抜けたのだって、きっと何か理由があるんだ。

「とにかく出発は二日後の夜ね」

「ああ……それまでに準備はするとして問題は――」
 
俺は眠っているソフィアに目を戻した。

「ソフィアを連れて行くか行かないかだ」

「連れて行かないとなると、ソフィアは物凄く怒るわよ」

「だよな……」
 
それに俺が居ないことを良いことに、好き勝手に魔法を使うかもしれない。

それなら連れて行って、側で見張っていた方が最善なのかもしれない。

本当は俺が帰って来るまで、ここに縛り付けておきたいところだけど、そんなことしたら確実にソフィアに殺される。

「はあ……」
 
俺は重々しく溜め息を吐き、苦笑しながらソフィアの髪を優しく撫でた。