懐かしい記憶を思い出しながら軽い笑みを浮かべて紅茶をすする。

「でも……気になるな」
 
近々ラスールへ行く用事もあったし、様子を見に行ってみるか。

そうボソッと呟き、机に立てかけてあった二本の剣を腰にさして、店を出た俺は真夜中の森に向かって歩き出した。

✩ ✩ ✩

「それからここ二日。森の様子を見させてもらったが、この森を豊かにしていたはずの精霊たちが居ない事に気がついた」

「……っ」
 
フォルはさっきから表情を歪め、俺から目を逸している。

どうやらこの戦争に、精霊たちの存在が関わっているのは確かなようだな。
 
そう確信して俺は目を細めた。
 
しかしなぜ突然、精霊たちは姿を消したんだ? 

戦争が起こったのは今から六十年も前だ。精霊たちが姿を消したのはその前ってことになる。

「確かに兎人族たちと戦争をしているのは、精霊たちが居なくなったことは関わっている。だが、もっと別の事で俺たちは争っているんだ」

「別のことだと?」

「ああ」
 
フォルは窓の外を見つめると話し出す。

「今から六十年前だ。突然、狼人族と兎人族の間で、原因不明な病気が流行りだしたのは」

「……病気だと?」
 
精霊たちが豊かにしているこの森で、原因不明の病気が流行っただと?

「原因は今でも分からない。病気を治す方法すらない。だが唯一分かる事が一つだけあるんだ」
 
その言葉に俺の中である事が思い浮かんだ。それにフォルも気づいたようで軽く頷いてみせる。

「原因不明の病気が流行りだしたのは、精霊たちが姿を消してから……か」
 
精霊たちが姿を消した途端、その病気は流行りだした。

まさか精霊たちはその病気を流行らせないために抑えていたのか? 

しかし自分たちの力ではもう抑える事が出来ず、やむを得ずこの森を捨てて他の森へと移り渡った。