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闘技場を後にした私は、森の中を歩いていた。そして目の前に見える遺跡近くまで来たところで、ある気配を感じて足を止めた。

「居るんだろ? 姿を見せたらどうだ?」
 
私の声を聞いた人物は木の上から地面へ下り立つと、被っていたフードをおろした。

見覚えのある顔が瞳に映り、私は少し顔をしかめて彼に問いかけた。

「やっぱり見ていたんだな。見ていたなら、助けてやっても良かっただろうに」
 
その言葉に彼は苦笑すると頭を左右に振る。

「いや、悪いけどそれは遠慮しとく。さすがにまだあの子とは戦いたくない」
 
彼はそう言うと深く息を吐く。

そんなに溜め息を吐くほど戦いたくないのか? と思いながら私は胸の目で腕を組んだ。

「それにお前一人でも十分だと思っていた。そうだろ? 氷の女神――サファイア」

「……その呼び方はやめろ」

【氷の女神】と呼ばれ、一瞬だけ肩がピクリと動いた。

まったく、どいつもこいつも氷の女神、氷の女神って……。

「それでどうだった? 久しぶりの魔人の相手は?」
 
その言葉に私は目を逸した。
 
魔人族と戦ったのは、なにも今回が初めてと言うわけではない。

これで二度目と言うべきか。

【お願い……サファイア。彼を……止めて!】
 
あの時の記憶が過り私は頭を左右に振る。

しかしあの時は、みんが居てくれた。だから止める事が出来たのだ。

「あの程度の力なら、私一人でも抑える事は出来る。あいつの力に比べたら、子供の相手をしているような物だからな」

「まじかよ……。俺は見ていて鳥肌が立ったんだけどな」
 
そう言って彼は今も鳥肌の立っている腕を見下ろした。

その拍子に首から下げられた翡翠石が光り、私はそれを見つめた。