「しかしソフィアの魔人の力は本当に強力だ。だからしばらく、私の力で眠ってもらう」

「ね、眠ってもらうって?!」

「ああ、もし本当に魔人の力を彼女が欲した時、私の氷は溶けるさ」
 
青髪の女性はそう告げると、最後にカレンへ視線を送った後に、その場から姿を消した。

そして彼女の言葉が俺の頭の中を巡った。

【もし本当に魔人の力を彼女が欲した時、私の氷は溶けるさ】
 
あの言葉の意味はどういうことなのだろうか?

「……あの」
 
すると俺の後ろにいたザハラがヨロヨロと立ち上がると、俺に問いかける。

「ソフィアの雫が不安定と言うのは、どういうことですか……」

「それは……」
 
ザハラの顔を見つめると、彼女の瞳は酷く揺れていた。まさか後悔してしまったのだろうか? 

雫が不安定な状態でソフィアに戦わせてしまったことを。

「……話しは後で良いだろ。とりあえず、今はソフィアたちを運びたい」
 
ザハラにそう告げ、俺はソフィアの元へと走った。

氷の上に倒れているソフィアの体を抱き起こした俺は、じっと彼女の顔を見下ろした。

「……ソフィア」
 
ソフィアの体はさっきの戦闘のせいでボロボロだった。

肌は擦り傷だらけで血が流れ、着ている服も破けてしまっている。

しかしさっき青髪の女性の氷剣によって貫かれた部分は凍りついており、既に止血が施されていた。
 
まさかさっきの人は、魔人ソフィアを封じ込めるためにわざと、氷剣で体を貫いたのだろうか?
 
俺は気を失っているソフィアの頬に手を当てる。
 
体は少し熱くなり始めている。

きっと魔人の血が、ソフィアの傷ついた体を治癒しようと、細胞たちに働きかけているんだろう。
 
俺はソフィアの体を抱き上げて、彼女の髪に自分の顔を埋める。

そして――

「ごめん……守れなくて」
 
掠れた声で彼女に謝るように、俺はそう小さく呟いたのだった。