「車を走らせると変な音が聞こえてくるんです」
電話の向こうの母に「またあとで!」と言い捨てて通話を切り、向き直って彼に端的に説明する。雨が強いので、いつもより少し声を張った。
彼は耳をそば立てるようにして言葉を聞き取ると、首をかしげる。
「音はいつから?今聞こえたばかりですか?」
「4日前から……かな?」
「はあ、よくそんな状態でずっと乗ってましたね」
呆れたように苦笑いする彼に、その通りだと思いつつもなんとなく言い訳をする。
「夜勤続きで乗ったのも4日振りなんです。さっき車に乗るまで忘れちゃってて……」
「どんな音?」
「え?」
「変な音ってどんな音?」
彼は聞きながら手に持っていたビニール傘を開き、私を手招きした。なんとなくそれに従って傘に入れてもらい、彼についていく。
「キュルキュル……みたいな、甲高い音です」
「ふーん。エンジンルームかな」
彼は路肩に停まっている2台の車を見比べて、「どっちですか?」と尋ねてきた。
自分のコンパクトカーの方を指差すと、傘を私に預けてさっさと車の点検を始めてしまった。
慌てて彼の背中に駆け寄り、濡れないように傘を傾ける。少しだけ振り向いて、ありがとうとでも言うように微笑んだ。
この感じだと、どうやら音の原因を調べてくれているらしい。
「あの、通りすがりの人にこんなことをお願いしてしまってすみません。お時間は大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。でも暗くてよく見えないな〜……懐中電灯借りてきます」
「え、どこから?」
「コンビニ」
戸惑う私をよそに、彼は軽快なフットワークで傘から抜け出してコンビニへと吸い込まれていった。
そしてものの1分ほどで懐中電灯を手にして戻ってきたのだ。
「俺のバイト先なんです、そこのコンビニ」
ポカンとしている私に、彼は慣れた手つきで車のエンジンルームを開きながら話す。
ということは、バイト上がりでたまたま外に出て、私の電話を聞いたから助けてくれているということらしい。
偶然が重なったとはいえ、本当にありがたかった。



