雨宿りの法則



夜だし視界は悪いし、携帯のライトではちっとも車の変化を見つけることなんて出来やしない。
ロードサービスにでも電話をするべきなのだろうか。


困り果てた私はすぐそばにあったコンビニの軒下に逃げ込み、まずは田舎の父に相談しようと連絡を試みた。

父は携帯を持っていないので家の電話に連絡をしたものの、電話に出たのは母だった。
こんな時に限って会社の飲み会だというのだ。
母は免許を持っていないので、車に関しては私以上に疎い。


『警察はなんとかしてくれんのかね?』

「何言ってんの。一般人の車から変な音がするくらいで警察が動いてくれるわけないでしょ」

『じゃあどうすんの』

「ロードサービスに連絡してみる……とか?」

『音がするだけで動くんなら、とりあえず家に帰ってからでもいいんでない?』

「その間に事故に遭ったらどうするのよ」


不毛な言い合いをしつつ、真っ暗な空を見上げる。行き交う人はみんな傘をさして歩いていて、私の方なんか見向きもしない。
きっと私が彼らの立場なら、同じだっただろう。
雨の日はさっさと家に帰ってしまいたいものだから。


「変な音がしてるのは数日前からなのよ。突然タイヤとか外れたら確実に大怪我だし、自損ならまだしも周りに迷惑かけちゃう」


私の必死さを、田舎暮らしの長い母がのほほんとした調子で笑い飛ばす。


『タイヤが外れて、そのまま空でも飛べたらねぇ』

「お母さん!もう!こっちはふざけてる場合じゃないのに!」


車を買った中古自動車店の営業時間はとうに過ぎているので、頼りにならない。ましてや母はもっと頼りにならない。
はぁ、と重いため息をついていると、隣から控えめな声量で「あのー」と声をかけられた。


「車、故障したんですか?」


電話に夢中で気づかなかった。隣に人が立っていることに。
慌てて振り向くと、心配そうな顔をした若い男の子がこちらを見つめていた。下手すると高校生じゃないかと思うような、あどけない印象を植え付けるほどに。