男狼 最終話(13話)
突如聞こえた不思議な声は、
とても美しく、綺麗だった。
『男狼はもう“もとの世界には”いません』
その声の主は続ける。
『男狼は、この世界にいます』
その時、咆哮が響いた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん」
憐は焦る。
「や、やべぇ、逃げなきゃ!」
『そこの扉を通れば、男狼は追ってこれませんよ』
その言葉が真実である確証はなかった。
でも、憐は扉に手をかけた。
ドアノブさえも赤い。
「「まてぇ!!!!!
ぜったイ、逃ガさなイ!!!」」
その時、憐はそっと扉から手を離した。
「何なんだ?この扉」
憐が謎の声に聞く。
憐には、疑問があった。
『…………?出口ですよ』
意味が分からないとでも言うように謎の声は答える。
「そんなことは分かってる。
何だよ、この色。…………いや、この血は」
血。
扉はもともとは赤くなかった。
血によって赤くなったのだ。
『驚いた。気づいたのですか。
安心してください。これは人間の血ではありません。
男狼の、血です』
「ちゃんと、話してくれ」
声の主は少し迷い、そして、話はじめた。
『時間がないので、速やかに言います。
………………この町では、たくさんの大神がいました。
ですが、ある日を境にして大神は消えました。
いえ、大神の力を失いました。
力を失った者達は、男狼になりました。
その男狼達の復活のため、男狼の儀式ができました。
ですが、男狼が暴れる危険性が多々あったため、
男狼の記憶を一部封印したうえで、
最後の対策として、この空間を作ったのです』
憐はただ、驚くばかりだった。
まだまだ謎はある。
だが、聞いただけでは、この町でできたみたいだ。
「「あト、10回殺セバ………………!!」」
男狼は、もうすぐそばまで来ている。
ただ、ひどく苦しそうだ。
おそらく、この空間自体が男狼にとって害なのだろうと憐は推測する。
憐はまだ赤い扉を通らない。
『さあ、扉に!速く!!』
謎の声が急かす。
だが、憐は動かない。
『何を、しているのです……?』
謎の声に、憐は答える。
「俺は、俺のしたいようにする」
そう言って憐は、レンの方向へと走る。
「「…………ヴ……………………?」」
レンの目の前で、憐は立ち止まる。
「さあ、俺を殺せ」
レンは意味が分からないというような様子だ。
「戻してやるよ、大神に」
「「なゼ…………ダ?」」
「知らねぇよ。
ただ、自分と同じ姿のやつに、死なれたくないだけだ」
「「………………あリガとウ」」
そして憐は殺された。
計10回。
10回目の死と共に、レンの姿は変わった。
白髪の、綺麗な顔立ちをした少年。
それがレンの本当の姿だった。
「それが、本当の姿……か?」
憐が聞く。
そしてレンは、ゆっくりと頷いた。
「君は…………何の神だ?」
「「…………秘密、だよ」」
レンはいたずらっぽく笑う。
だが憐にはある程度の予想がついていた。
「鏡、かい?」
レンは驚く。
「「正解……だ。
驚いたよ。まさか当てるとは」」
憐がなぜその予想がつけいたか、
レンの姿が関係していた。
憐と全く同じ姿。
男狼についての本にも、なぜその姿なのかは記されていなかった。
ただ、男の姿で現れるとしか、記されていなかった。
レンの姿は、特別なのかもしれない。
そこから憐は推測したのだ。
結果、鏡の大神ではないかという、予想がたてられた。
レンが、その事について、詳しく話す。
「「僕はある日を境にして、魂が進化した。
それには、鏡が関係している。
考えてごらん?
かがみから、が(我)を抜くと、神が残る。
鏡は人の心を写し出す。
僕は、自分のことがどうでも良くなるくらい、
守りたいと願った人がいた。
まぁ、その人も、大神になったんだけどね。
僕はそれで大神になったんだ。
でも……………………
もういいだろ?さあ、行きなよ」」
レンが急かす。
レンの‘でも’の続き。
憐にはその予想がついていた。
謎の声の話していた、
大神達が男狼へと変わってしまった、
‘ある日’のことだろう。
「待てよ!
…………1つだけ、教えてくれ」
「「なんだい?」」
「…………その、‘でも’の続き。
‘ある日’に、何があったんだ?」
レンは少し驚く。
「「君、なかなかしつこいんだね。
全ては教えられないよ。
でも、1つだけ教えられることがある」」
「……何だ?」
「「“大神殺しの大神”。
そいつによって、全てのバランスが崩れた。
僕が言えることは、それだけだよ」」
大神殺し。
憐はその奇妙な名に、何故か嫌悪感を感じた。
その名を持つものに、自分が関連する時がくると直感で、感じとったからだ。
謎を少しでも解明しようとしたが、
逆に謎が深まるばかりだった。
突如、考え込む憐を、勢いよくレンが押した。
「……なっ!?」
憐の後ろには、いつの間にか開いていた赤い扉が。
「「さよならだ、憐」」
その言葉と、レンの表情で、憐は勘づいた。
「お前…………まさか」
「「僕はもう、レンじゃないよ。
僕の本当の名は、キョウって言うんだ」」
そう言ってキョウは笑みを浮かべる。
だが、そのキョウの顔は、ひきつっていた。
無理矢理作った笑みだと、すぐに分かる。
キョウは確かに大神に戻った。
でも、赤い扉を通ってしまえば、それも全て水の泡。
キョウは消滅する。
この空間には、出口は1つしかない。
赤い扉しかないのだ。
「「っっっっっっ!!!
待てよ!おいっ!キョウ!!!!
待て!待て!逃げんなよ!!!」」
「「生きるんだ。生きて、幸せになれ、憐」」
扉が閉まる。
「「バイバイ♪」」
赤い扉は、また赤く染まった。
テレビのニュース番組が騒がしい。
「臨時ニュースです!
昨晩、真明高校にて、4人の生徒が、
1人の生徒によって、殺害される事件が起こりました!
また、その死体がとても奇妙なそうです。
科学的に、説明できるものではないものもあり、容疑者の少年は、頑丈な警備のなか、刑務所へと、送られるそうです!
また、容疑者の少年は、犯行を否定しているとのことです」
それから、真明高校の教室の4つの机の上には、花が添えられた。
そして、1つの机は、処分された。
処分の時、机に貼られた名前プレートが見える。
そこに書かれた名前は、
大里 憐
突如聞こえた不思議な声は、
とても美しく、綺麗だった。
『男狼はもう“もとの世界には”いません』
その声の主は続ける。
『男狼は、この世界にいます』
その時、咆哮が響いた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん」
憐は焦る。
「や、やべぇ、逃げなきゃ!」
『そこの扉を通れば、男狼は追ってこれませんよ』
その言葉が真実である確証はなかった。
でも、憐は扉に手をかけた。
ドアノブさえも赤い。
「「まてぇ!!!!!
ぜったイ、逃ガさなイ!!!」」
その時、憐はそっと扉から手を離した。
「何なんだ?この扉」
憐が謎の声に聞く。
憐には、疑問があった。
『…………?出口ですよ』
意味が分からないとでも言うように謎の声は答える。
「そんなことは分かってる。
何だよ、この色。…………いや、この血は」
血。
扉はもともとは赤くなかった。
血によって赤くなったのだ。
『驚いた。気づいたのですか。
安心してください。これは人間の血ではありません。
男狼の、血です』
「ちゃんと、話してくれ」
声の主は少し迷い、そして、話はじめた。
『時間がないので、速やかに言います。
………………この町では、たくさんの大神がいました。
ですが、ある日を境にして大神は消えました。
いえ、大神の力を失いました。
力を失った者達は、男狼になりました。
その男狼達の復活のため、男狼の儀式ができました。
ですが、男狼が暴れる危険性が多々あったため、
男狼の記憶を一部封印したうえで、
最後の対策として、この空間を作ったのです』
憐はただ、驚くばかりだった。
まだまだ謎はある。
だが、聞いただけでは、この町でできたみたいだ。
「「あト、10回殺セバ………………!!」」
男狼は、もうすぐそばまで来ている。
ただ、ひどく苦しそうだ。
おそらく、この空間自体が男狼にとって害なのだろうと憐は推測する。
憐はまだ赤い扉を通らない。
『さあ、扉に!速く!!』
謎の声が急かす。
だが、憐は動かない。
『何を、しているのです……?』
謎の声に、憐は答える。
「俺は、俺のしたいようにする」
そう言って憐は、レンの方向へと走る。
「「…………ヴ……………………?」」
レンの目の前で、憐は立ち止まる。
「さあ、俺を殺せ」
レンは意味が分からないというような様子だ。
「戻してやるよ、大神に」
「「なゼ…………ダ?」」
「知らねぇよ。
ただ、自分と同じ姿のやつに、死なれたくないだけだ」
「「………………あリガとウ」」
そして憐は殺された。
計10回。
10回目の死と共に、レンの姿は変わった。
白髪の、綺麗な顔立ちをした少年。
それがレンの本当の姿だった。
「それが、本当の姿……か?」
憐が聞く。
そしてレンは、ゆっくりと頷いた。
「君は…………何の神だ?」
「「…………秘密、だよ」」
レンはいたずらっぽく笑う。
だが憐にはある程度の予想がついていた。
「鏡、かい?」
レンは驚く。
「「正解……だ。
驚いたよ。まさか当てるとは」」
憐がなぜその予想がつけいたか、
レンの姿が関係していた。
憐と全く同じ姿。
男狼についての本にも、なぜその姿なのかは記されていなかった。
ただ、男の姿で現れるとしか、記されていなかった。
レンの姿は、特別なのかもしれない。
そこから憐は推測したのだ。
結果、鏡の大神ではないかという、予想がたてられた。
レンが、その事について、詳しく話す。
「「僕はある日を境にして、魂が進化した。
それには、鏡が関係している。
考えてごらん?
かがみから、が(我)を抜くと、神が残る。
鏡は人の心を写し出す。
僕は、自分のことがどうでも良くなるくらい、
守りたいと願った人がいた。
まぁ、その人も、大神になったんだけどね。
僕はそれで大神になったんだ。
でも……………………
もういいだろ?さあ、行きなよ」」
レンが急かす。
レンの‘でも’の続き。
憐にはその予想がついていた。
謎の声の話していた、
大神達が男狼へと変わってしまった、
‘ある日’のことだろう。
「待てよ!
…………1つだけ、教えてくれ」
「「なんだい?」」
「…………その、‘でも’の続き。
‘ある日’に、何があったんだ?」
レンは少し驚く。
「「君、なかなかしつこいんだね。
全ては教えられないよ。
でも、1つだけ教えられることがある」」
「……何だ?」
「「“大神殺しの大神”。
そいつによって、全てのバランスが崩れた。
僕が言えることは、それだけだよ」」
大神殺し。
憐はその奇妙な名に、何故か嫌悪感を感じた。
その名を持つものに、自分が関連する時がくると直感で、感じとったからだ。
謎を少しでも解明しようとしたが、
逆に謎が深まるばかりだった。
突如、考え込む憐を、勢いよくレンが押した。
「……なっ!?」
憐の後ろには、いつの間にか開いていた赤い扉が。
「「さよならだ、憐」」
その言葉と、レンの表情で、憐は勘づいた。
「お前…………まさか」
「「僕はもう、レンじゃないよ。
僕の本当の名は、キョウって言うんだ」」
そう言ってキョウは笑みを浮かべる。
だが、そのキョウの顔は、ひきつっていた。
無理矢理作った笑みだと、すぐに分かる。
キョウは確かに大神に戻った。
でも、赤い扉を通ってしまえば、それも全て水の泡。
キョウは消滅する。
この空間には、出口は1つしかない。
赤い扉しかないのだ。
「「っっっっっっ!!!
待てよ!おいっ!キョウ!!!!
待て!待て!逃げんなよ!!!」」
「「生きるんだ。生きて、幸せになれ、憐」」
扉が閉まる。
「「バイバイ♪」」
赤い扉は、また赤く染まった。
テレビのニュース番組が騒がしい。
「臨時ニュースです!
昨晩、真明高校にて、4人の生徒が、
1人の生徒によって、殺害される事件が起こりました!
また、その死体がとても奇妙なそうです。
科学的に、説明できるものではないものもあり、容疑者の少年は、頑丈な警備のなか、刑務所へと、送られるそうです!
また、容疑者の少年は、犯行を否定しているとのことです」
それから、真明高校の教室の4つの机の上には、花が添えられた。
そして、1つの机は、処分された。
処分の時、机に貼られた名前プレートが見える。
そこに書かれた名前は、
大里 憐