あれ?いない……。
先程までいた参考書コーナーに、保志君の姿が見当たらない。
どこ行ったんだろ?
キョロキョロと辺りを見渡す。
幸いさほど大きくない店内だったため、すぐに見つけることができた。
小説コーナーで、パラパラと文庫本のページをめくっている。
本当に本が好きなんだな。
私なんて、せいぜい漫画くらいしか読まないのに。
「お待たせしました」
私に気付いた保志君が、読んでいた本を棚へ戻す。
「保志君は、どんな本が好きなの?」
「芥川とか、太宰とか、川端とか……」
うっ……。お堅い文章の人達ばっかり。
学校の教科書にも出てくるくらいなので、無知の私でさえさすがに知っている。
どれも日本を代表する、まさに文豪。
でもそれぐらい有名だからこそ、私にも多少知識があった。
「でも、みんなあんなにすごい作家さんだったのに、なんで自分から命を絶ったのかな。
生きてたらきっと、すごい作品もっともっとたくさん書けたのに。
もったいなさ過ぎるよね」
それは特に深い意味はない、本当に何気なく言った言葉だった。

