「それじゃあ、これ」
保志君から差し出されたのは、帰りの切符と、来る時の電車賃。
「そんな、大丈夫ですから!」
いくらなんでも、そこまで甘えるわけにはいかない。
丁重に断ると
「俺のせいだから」
そう言って私の腕を取り、それらを手の中に押し込めてきた。
冷たい手……。
初めて会った時と変わらない、ひんやりと冷たい保志君の手。
トクンと心臓が波打つ。
「じゃあ、気を付けて」
踵(きびす)を返し、そのまま私に背を向け立ち去る保志君。
その背中がどんどん遠ざかり、小さくなっていく。
あまりにあっけなさ過ぎて、お礼もさよならも言えなかった。
これで最後なのかな……。
ツキンと胸の奥が痛む。
そうだよね。もう、会う理由なんてないもんね。
きっと、今度こそもう二度と会えない。
もう……二度と……──

