「……?実紅?なんだか顔赤いけど大丈夫?」
「え?あ、赤い!?」
「急にボーっとしちゃって、手も止まってるし。熱でもあるんじゃないの?」
「風邪かしら」と、お母さんが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
否定するように、慌てて首をブンブンと大きく横に振る私。
「今日はほら、残暑厳しいし、そのうえカレーでしょ?だから顔が火照っちゃって」
「そう?」
「うん、そうそう!」
私の言葉に「ならいいんだけど」と安堵するお母さん。
あ、危なかった……。
とりあえずなんとかごまかせたことに、ホッと胸を撫で下ろす。
実はこんなふうに彼のことを思い出して手が止まったのは、今が初めてではなかった。
バイト中もずっと頭から離れなくて、全然仕事に集中できなかったのである。

