低く嗄れた声で私を呼んだ伊波くんに、ぎゅう、と抱き締められる。


震える熱い吐息が、顔を埋められた肩に押しつけられる。


キメ顔は怖いくらいに美しくて、切なげで。


「麻里……」

「っ」


……くっそう、かっこいい。


やばい腰砕けた。


私は伊波くんのことが大好きなので、伊波くんがちょっとくらい変になったって普通に喰らうに決まっている。


真面目に動けなくなるから、耳元で腰にくる声はほんとやめて欲しい。


「今夜は帰さない」


美しいキメ顔だけど、若干いつもよりも伊波くんらしさの残る口調で、そんなことを言う伊波くん。


「うん。帰らないよ」


にっこり笑って即答したら。


「……え?」


ぽかんと目を丸くして、伊波くんが元に戻った。


「え? え? 帰らないんですか?」

「うん、帰らない」


混乱する伊波くんに事情を説明する。


「ごめんね、タイマー金曜日の終電にセットしたまんまですっかり忘れてただけ」

「……帰りたいわけじゃ、なくて?」

「帰りたいわけじゃなくて」


おそるおそるの確認に、うん、とはっきり頷くと、混乱したままらしい伊波くんが、何度も瞬きをした。


え。あれ?


なんでこんなに混乱してるの?


あれ?


……も、もしかして、泊まっちゃ駄目だった?