「伊波くん」

「はい」


苦笑して、鞄を持つ。


「駅まで送ってくれる?」


伊波くんは何も言わなくたって送ってくれる。


だから、私が改めて頼んだ意味を、込めた意味を、伊波くんは分かってくれるはずだ。


ごめんね、タイマーをセットした手前、もっと話がしたいなんて理由付けは、ずるいような気がしたんだ。


「……はい」


伊波くんがにっこり頷いた。


その視線が一瞬鞄に向いたものだから、おかしくて笑ってしまう。


荷物が多い場合を除いて、自分の荷物は自分で持つよ、私は。


伊波くんも分かってはいるんだけど、それでも視線を向けるあたりが、伊波くんが伊波たる所以だ。


玄関を出ると、夜遅いからか、少し肌寒い。


するりと自然に繋がれた手が温かくて、慣れた体温に口がほころんだ。