プロポーズは金曜日に

『終わったよ。今から一旦帰ります。もうちょっと待ってね』

『お疲れ様です。おでんできましたよ』

『はーい。おでん楽しみにしてるね』



『今出たとこだよ』

『早かったですね。気をつけて』

『はーい』



『そろそろ着くよ』

『はい』



『ねえ
 いま
 わたし
 あなたの家の玄関にいるの


 到着したよ。ただいま』

『おかえりなさい。でも麻里、ちょっと怖いです(笑)』


合鍵を取り出そうとしたところで、がちゃりと扉が開いた。


ひょっこり、扉の端から伊波くんが顔を出す。


「おかえりなさい、麻里」

「ただいま、伊波くん」


重めの扉を押さえてくれている伊波くんのわきを通って、急いで中に入る。


「ありがとう」

「いいえ」

「わああ、あったかい! ありがとう伊波くん!」

「いいえ」


伊波くんはリビングの温度を中心に調整するので、玄関まで暖めるのは珍しい。


大体のことができるリビングだけを暖めれば、節約になる。リビングから離れるときは、ちょっと我慢すればいいしね。


だから、多分、この玄関の暖かさは伊波くんの気遣いだ。


今日は一日、防寒しても息が白くなるくらい寒い日だったから、体を冷やして帰ってくるだろうと思ったのに違いない。


じわり、暖かさが染みるようだった。