「麻里」


甘やかに私の名前を呼ぶ伊波くん。


ああくそイケメンめ。

眼鏡か。眼鏡取ったからこんな妖しい流し目してんのか。


ああ、でも。


ど、どうしよう。ほんとどうしよう。


スイッチが入るのは、別にいい。


色気が漂うのも、違和感しかないけど別にいい。


強張った表情で私の顎をそっと持ち上げるのも、指が震えてるけどまあいいとしよう。


一番の問題は。


「今日は帰さねえよ」


この、妙ちきりんな口調である。しかも棒読み。


帰さねえよってなんだ。


しかもなんでそこで「これで合ってるのかな。大丈夫かな」みたいな目をするんだ。


知らんよ。自信持とうよ。


「…………伊波くん」


はっきり言おう。


似合わない。全くもって似合わない。


はあ、と私はため息を吐いて伊波くんを見上げた。


「帰してよ。明日仕事あるから困る」


言い切って、伊波くんの右手で持て余されていた眼鏡を取って装着。


さあ戻れ。ほんと戻って。お願いだから。


断固として帰ろうとする私に、眼鏡をかけられた伊波くんはへにゃりと眉を下げた。


「せっかくキメ顔で言ってみたのに……」


やっぱり駄目でしたか、なんて呟いている。


……いや、伊波くん、問題はそこじゃない。