好きって言えよ、だなんて、伊波くんらしい無意識下の言葉選びだ。


伊波くんはどんなに変になっても、俺のために、と付随するような台詞はこれまで一度も言ったことがない。


俺のために生きて、とか、俺のために毎日ご飯作って、とか、自分のために尽くして欲しいという類いのこと。


それから、仕事で支障が出るような束縛もしない。


笑うのは俺の前だけにしろ、とか、男の連絡先消せよ、とか、男と出かけるな話すな妬くから、とか。


そういう非現実的な言葉を、戯れにでも言ったことがない。


ゆるり、ふわりと笑って、そばにいてください、と言う。

隣にいてください、と言う。


麻里と毎朝会えたら幸せなのに、なんて抱きしめられたときには、もう悶え死ぬかと思った。


伊波くんはいつでも対等で、現実的で、優しい。


華やかさも便利さも甘さも、恐らく本来、結婚生活には不必要なものだ。


結婚は、一緒にいたい人と一緒にいるためにするものだと思う。


一緒にいることを公的に認められるし、確実に一緒にいるための最短距離だけど、別に、結婚しなくたって一緒にいることはできる。


ただ、結婚したら、明確な夫婦になれる。

幸せになれる、幸せにするという明確な約束ができる。


だから私は、結婚したいなあと思ったら、そのときに結婚したい。


……ああ、私、幸せになれるなあと思ったら、そのときに。