「麻里」

「うん」


優しい声だった。


どこまでも優しい声で、私を呼んで。


「麻里」


まり。麻里。


何度も私の名前をささやきながら、伊波くんが両手でそれぞれ私の両手を取った。


するりと慣れた動作で繋がれる。


冷えた指先に柔らかな体温が触れて、そうっと混じっていく。


「いいですよ。終わったらすぐ行きますから。待ってても全然構いませんから、大体の時間が分かり次第、早めに連絡してくださいね」

「うん」


私が遠慮して、解散してから連絡したことが一度あってから、伊波くんは少し早く来てくれるようになった。


自分は近場のカフェやコンビニにいればいいから。

三十分でも一時間でもそれ以上でも待つから。


『連絡してください。待ってますから』

『麻里を一人にするのが嫌なだけですから』

『僕を待つときも、なるべく明るくて暖かいところにいてくださいね』


冷えた手に白い息を吐くことがないように、と毎度のようにこまやかに念を押す。


「ありがとう」

「いいえ」


麻里。


いいえ、と伊波くんが優しく笑った。