伊波くんは運転免許を持っていないから、車での迎えはできない。


でも、お店を出たときに、伊波くんが優しく笑って手を繋いでくれると、ほっとする。

一緒に歩けると、ほっとする。


笑顔と体温と、ぽつりぽつりと落とされる言葉に、少しずつ少しずつ、沈んだ心が浮く。


「迎えに来て欲しいんだけど、駄目かな」


何も聞かないで私を見つめる伊波くんに、頑張って笑顔を作って。


背中の後ろで両手を組んで、こっそり指輪を撫でた。


左手の薬指には、もらった婚約指輪がはめてある。


不安なとき、困ったとき、……さみしい、とき。


婚約指輪にそっと触れるのは、ここのところ、くせになっていた。


体温と混ざらないその金属的な鋭い冷たさに、私以外の存在を、くれた伊波くんの存在を思い出して安心する。


『指輪、贈ってもいいですか』


伊波くんの笑顔と、温もりと、穏やかな声を思い出す。


伊波くん。

伊波くん。

いなみくん。


伊波くんが好き。